
こんにちは。NRI AXイノベーションセンター AIソリューション推進部の大河内です。
2026年3月に開催された「言語処理学会第32回年次大会(NLP2026)」、そして同年6月の「第40回人工知能学会全国大会(JSAI2026)」に、NRIは今回初めて企業スポンサーとして参加しました。両学会は日本国内最大級のAI関連学会で、最新の研究発表に加えて、数多くの企業がスポンサーとしてブースを構えています。
学会に足を運ぶ時間はなくても、生成AI研究の「今」をキャッチアップしたいという方は多いのではないでしょうか。この記事では、初めてのスポンサー出展の様子と、両学会で行った研究発表、そして会場で見えてきた生成AI研究の最新トレンドをまとめてレポートします。
言語処理学会・人工知能学会とは
まず、両学会がどのような場なのかを簡単に紹介します。
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言語処理学会(NLP2026) |
人工知能学会(JSAI2026) |
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概要 |
1994年設立、自然言語処理を専門とする国内学会。今回で32回目 |
1986年設立、国内最大級のAI関連学会。今回で40回目 |
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開催期間 |
2026年3月9日〜13日 |
2026年6月8日〜12日 |
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開催地 |
栃木県宇都宮市 |
群馬県高崎市 |
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参加者数 |
2,316名(前回2,248名) |
5,278名(前回4,939名) |
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発表件数 |
797件(前回777件) |
1,397件(前回1,178件) |
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特徴 |
LLMブームを背景に共通コミュニティが形成されている |
言語からロボティクスまでテーマが幅広く、総論的なセッションも多い |
言語処理学会はLLM(大規模言語モデル)を中心とした自然言語処理に特化したコミュニティで、人工知能学会はロボティクスや社会科学まで含む幅広いテーマを扱う学会です。いずれも100社を超える企業がスポンサーとして参加しています。
初めてのスポンサー出展、ブースの様子
今回NRIは、言語処理学会ではプラチナスポンサーとして「スポンサーミートアップ」に、人工知能学会ではゴールドスポンサーとして5日間の常設ブースに、それぞれ出展しました。ブースでは、NRIのAIサービス全体像や金融AI系サービス「YUIAI」の紹介に加えて、経済産業省および国⽴研究開発法⼈新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて実施するプロジェクト「GENIAC」の⽀援を受けて進めた中規模LLMの業務特化チューニングの成果、そしてAI tech lab.が手がけた小売業向けロボットの実戦投入事例をポスターで紹介しました。

来場者は学生が中心で、企業関係者や既存のお客様が立ち寄ってくださる場面もありました。
用意していた配布用のパンフレットは想定を上回るペースでなくなり、会期中に現地印刷で追加するほどの盛況ぶりでした。初めてのスポンサー出展でしたが、多くの方に足を止めていただきました。
研究発表の様子もいくつかご紹介
NRIでは、金融ITイノベーション事業本部を中心に、金融ドキュメント処理などの自然言語処理研究を継続的に行っており、今回もその成果の一部を両学会で発表しました(太字がNRIメンバーです)。
言語処理学会(NLP2026)
- 言語学的パイプラインに基づく妥当性の検証:金融テキストを対象として(松原舞(お茶大)、外園康智、角田充弘、田村光太郎、大洞日音(お茶大)、富田朝(お茶大)、戸次大介(お茶大))
- ドメイン特化LLMの推論能力向上を目的とした合成指示データセットの構築と金融ドメインにおける評価(大河内悠磨、Fabio Milentiansen Sim(NRIインドネシア)、岡田智靖)
- 金融領域における裁判外紛争解決事例データの構築と和解判断予測(田村光太郎)
人工知能学会(JSAI2026)
- 言語学的パイプラインによる金融テキストの妥当性検証(外園康智、松原舞(お茶大)、富田朝(お茶大)、角田充弘、田村光太郎、戸次大介(お茶大))
- 開店・閉店イベントに着目した商業動態データセットの構築(小林遼生(筑波大)、田村光太郎、志田洋平(筑波大))
- 金融ADR紛争事例を用いた和解判断予測に向けたデータ構築とモデル化の基礎的検討(田村光太郎)

このうち、AXイノベーションセンターのAI tech lab.が経済産業省・NEDOの「GENIAC」の支援を受けて発表した研究では、金融ドメインに特化したLLMの指示データセットを自動合成する手法を提案し、構築したデータセットとモデルを Hugging Face 上で公開しています。
この成果は、NEDOの事業において得られたものです。

このほか、お茶の水女子大学・筑波大学との共同研究や、国際学会での発表も継続的に行っています。
NLP2026で見えた3つの潮流
言語処理学会の会場で特に目立った研究トレンドを3つ紹介します。
安全性・信頼性への課題意識の広がり
LLMの社会実装が進み、誤情報や悪用のリスクが現実の課題として扱われるようになりました。今大会はチュートリアルの大半、受賞論文の多くが安全性・倫理をテーマにしており、「実用を見据えたシリアスモード」に入った印象を受けました。プロンプトへの不可視文字の挿入による敵対的攻撃や、LLMが受け入れやすい説得のパターンなど、具体的な攻撃・脆弱性を検証する研究が目立ちました。
音声・視覚・動作へのマルチモーダル拡張
言語能力の成熟に伴い、関心が「言語と他の情報の結合」に移ってきています。音声を扱うモデルが最優秀賞を受賞し、医療画像や文書検索など画像系の受賞も多く見られました。マルチモーダル関連の研究発表は全体の15.3%を占め、2024年の9.0%から着実に増加しています。
LLM内部メカニズム解明が「理解」から「制御」へ
前年の大会ではLLMの内部を読み解き、どの部分が何を担っているかを突き止める研究が主流でした。今大会では、その理解を土台にモデルへ介入し、信頼性や安全性を高めようとする研究が目立ちました。性能向上が一段落し、信頼性の確保にはモデル内部の理解が欠かせないという認識が広がっていることを感じさせる潮流でした。
JSAI2026で見えた3つの潮流
続いて、人工知能学会の会場で見えた、他社の取り組み紹介やディスカッションを中心とした3つの潮流を紹介します。
AIエージェントの産業応用への移行
前年は議論が中心だったAIエージェントが、企業のインダストリアルセッションでは業務実装の取り組み紹介が中心になっていました。ワークフローの記述方法やツール選択の最適化、プロンプトの自動設計など、AIエージェントを実務で使いこなすための具体的な工夫の紹介が相次ぎました。
フィジカルAI・身体性への展開
スポンサー展示ではヒューマノイドをはじめとするロボット展示が特に目立ち、製造業を中心にロボット基盤モデル(VLA:Vision-Language-Action)の研究が盛んに紹介されていました。研究発表では、ロボットの把持や動作生成の精度・応答速度を高める手法が多く発表されており、実用化に向けた成功率向上の工夫が目立ちました。
AI for Scienceと研究プロセスの自動化
仮説生成から論文執筆までを担う「AIサイエンティスト」についてのディスカッションも活発でした。AIのみで書き上げた論文が国際学会のワークショップで採択された例も紹介され、会場の関心を集めていました。一方で、AI関連学会への投稿論文数が急増し、査読の担い手が追いつかない「査読崩壊」への懸念も語られており、AIが知識と実行を担う一方で、目標設定や評価、そして研究の責任は人間が担い続けるという分業論が中心となっていました。
まとめ
初めてのスポンサー出展を通じて、学生からは社会実装への高い関心が寄せられ、企業活動をアピールする場として機能したことを実感できました。
学会全体の潮流としては、言語処理学会では安全性・信頼性を軸にした実用フェーズへの移行が、人工知能学会では研究から産業応用への加速が印象的でした。生成AIは「作れるかどうか」から「安全に、実務で使えるかどうか」を問う段階に入りつつあると感じています。
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