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手書き帳票もそのまま構造化データへ ~Claude Fable 5 によるマルチモーダルLLM情報抽出~

松本雄太

はじめに

こんにちは、NRI で AI ソリューションの導入支援を担当している松本です。
2023年11月に公開した過去記事「非構造化データから構造化データへ~Amazon Bedrock での Claude 利活用~ 」では、非定型帳票から項目を抽出する手法として、次の4つをご紹介しました。

  1. キーワード情報抽出
  2. レイアウト構造抽出
  3. 大規模言語モデル情報抽出(LLM 情報抽出)
  4. マルチモーダル LLM 情報抽出

当時の記事では、④のマルチモーダル LLM 情報抽出について「1モデルで画像から対象項目を End-to-End で抽出できる有望な手法だが、本番業務への適用にはもう少し時間がかかるかもしれない」と書きました。あれから2年半。結論から言うと、その「もう少し」が、ついに来ました!

今回は、Anthropic の最新モデル Claude Fable 5 を使って、AI-OCR を介さずに手書き帳票から直接キー項目を抽出する検証を行いましたので、その結果とコスト感をご紹介します。なお、記事後半に記載のとおり、処理データが従来のAWSのデータ・セキュリティ境界の外に出るため、利用にあたっては事前に十分確認をお願いします。

 

検証の題材:手書きの「口座移管依頼書」

検証に使ったのは、スマートフォンで撮影した手書きの「口座移管依頼書」です。
(すべて架空のダミーのデータ)

この帳票、AI-OCR の観点ではなかなかのくせ物です。

  • すべて手書き(フリガナ、英数字、漢字が混在)
  • 用紙が斜めに撮影されており、台形に歪んでいる
  • 「振替元」「振替先」という同一レイアウトの表が2つ並ぶ
  • 銘柄明細の数量欄は、記入位置が銘柄行から半行ほど下にずれている

従来であれば、AI-OCR で全文テキスト化 → レイアウト解析 → LLM で項目抽出、という多段のパイプラインを組むところですが、今回はこれをプロンプト1つ、API 呼び出し1回で済ませます。

AI活用に関するソリューション・事例はこちら

 

やったこと:画像を渡して「キー項目を抽出して」と頼むだけ

Claude Fable 5 に画像を渡し、「各種キー項目を抽出してください」という趣旨のシンプルな指示を与えました。前処理(傾き補正、二値化、領域分割)は一切していません。

抽出結果

返ってきた結果が以下です。今回の検証ではすべての項目が正しく抽出できました。

基本情報・依頼者情報

項目 抽出結果
書類名 口座移管依頼書
宛先 ダミー証券会社 御中
ご依頼日 2023年10月23日
振替指示日 2023年11月16日
氏名 野村 太郎(ノムラ タロウ)
生年月日 1988年12月31日
性別
住所 〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2 GC29F
電話番号 03-5533-2111

 

振替元/振替先口座の明細

項目 振替元 振替先
口座管理機関名 ファンタジーバンク 仮想銀行
部支店名 夢見ヶ丘 バーチャル
部支店コード FAN012 VRC321
口座番号 12345698 978654321
機構加入者コード ABCD123456789 ZYX9876123456

 

振替銘柄の明細

銘柄コード 銘柄名 数量
IMG789 イマジナリーキャピタル 20,000
VRT456 ヴァーチャルファンド 30,000
DMY321 ダミービジネス 123,456
SIM987 シミュレーションズ証券 9,876

 

ここがすごい、と感じたポイント

検証していて特に感心したのは、次の点です。

  1. 手書き文字の読み取り精度

癖のある手書きのカタカナ・英数字(「FAN012」「ZYX9876123456」など)も正確に読み取れています。従来の AI-OCR では「0とO」「1とI」の誤認識が頻発するポイントですが、帳票の文脈(コード欄である、という理解)も踏まえて解釈しているように見えます。
また、口(くち)、ロ(カタカナ)、□(記号)を間違いがちな箇所もきちんと漢字の口(くち)として読み取れています。

  1. 同一レイアウトの表の混同がない

「振替元口座」と「振替先口座」はまったく同じレイアウトの表ですが、項目の取り違えはありませんでした。これは②レイアウト構造抽出の手法では座標ベースの作り込みが必要だった部分です。

過去記事の時点では「マルチモーダル LLM は有望だが本番はまだ先」という評価でしたが、Anthropic のモデルはこの2年半で着実に進化を重ねてきました。Claude 3 でマルチモーダル対応、Claude 3.5〜4 系で精度と速度の向上、そして Claude Fable 5 では日本語の手書き帳票という「日本のビジネス現場で最も泥臭い課題」に正面から使えるレベルに到達した、というのが率直な実感です。

 

気になるコスト:1枚あたり約10円強

「精度はわかった。で、いくらかかるの?」という点を試算してみます。

Amazon Bedrock の Claude Fable 5 のオンデマンド料金(Global Cross-region Inference)は以下のとおりです。

モデル 入力 100万トークンあたり 出力 100万トークンあたり
Claude Fable 5 $10.00 $50.00
Claude Opus 4.8 $5.00 $25.00
Claude Sonnet 4.6 $3.00 $15.00


今回の検証では、帳票画像1枚+指示プロンプトで入力が約2,500トークン、抽出結果の出力が約1,000トークンでした。これをもとに1枚あたりのコストを計算すると、

  • 入力:2,500トークン × $10.00/100万トークン ≒ $0.025
  • 出力:1,000トークン × $50.00/100万トークン ≒ $0.050
  • 合計:約 $0.075(1ドル160円換算で約12円)

つまり、手書き帳票1枚を約10円強でデータ化できる計算です。過去記事では「AI-OCR+LLM」の多段構成で「一枚数円から十数円」とご紹介しましたが、マルチモーダル方式は同等のコストレンジのまま、AI-OCR エンジンのライセンス費用と、パイプラインの構築・保守コストが丸ごと不要になる点が大きな違いです。

参考:画像サイズと入力トークンの目安

画像サイズ(px) 入力トークン
960×1280 約 1,600
1200×1600 約 2,500
3024×4032 約 4,800

 

業務適用にあたっての留意点

  • 読み取り結果の検証プロセスは引き続き必要です。精度が高いとはいえ、金融帳票のように1桁の誤りが許されない業務では、確信度の低い項目を人間が確認するワークフロー(Human-in-the-Loop)の設計が前提になります。
  • プロンプトで出力形式(JSONなど)を固定化することで、後続システムとの連携が安定します。
  • 抽出結果に対するシステム的なチェック処理を入れるのも有効です。郵便番号・電話番号の桁数チェック、コード類のマスタ照合、数量合計の検算といった機械的なバリデーションを挟むことで、人間が確認すべき帳票を絞り込み、確認作業の負荷を大きく減らせます。
  • Claude Fable 5 のデータ取り扱いには注意が必要です。2026/6/10時点では、Claude Fable 5 は、Amazon Bedrock 経由の利用であっても、Anthropic へのデータ共有(`provider_data_sharing`)へのオプトインがモデル利用の前提条件となっています。具体的には、入出力データが30日間保持され、Anthropic による不正利用検知(人によるレビューを含む)の対象となり、データは AWS のデータ・セキュリティ境界の外に出ます。「Bedrock に閉じているからデータは AWS 内に留まる」という従来の前提が、Mythos クラスのモデル(Fable 5 / Mythos 5 以降)には当てはまらない点にご注意ください(詳細はAWS 公式ブログ参照)。
  • したがって、個人情報や機密情報を含む帳票を扱う場合は、社内のデータ取り扱い規程や顧客との契約条件に照らした事前確認が必須です。要件上データを AWS 外に出せない場合は、従来どおり Bedrock 内でデータが完結する Claude Opus 4.8 や Claude Sonnet 4.6 を採用する、あるいは検証はダミーデータで行う、といった使い分けが現実的な選択肢になります。

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

2023年に「もう少し先」とお伝えしたマルチモーダル LLM 情報抽出は、Claude Fable 5 の登場により、手書きの日本語帳票でも実用に耐えるレベルに到達しました。AI-OCR の製品選定やレイアウト定義の作り込みに悩んでいた方にとって、「画像をそのまま LLM に渡す」という選択肢は、システム構成を劇的にシンプルにする可能性を秘めています。

私たちのチームでは、お客様の帳票やセキュリティ要件に応じて、従来型 AI-OCR・LLM情報抽出・マルチモーダル方式のどれが最適かを比較検証するご支援も行っています。「うちの帳票でも読めるのか試してみたい」といったご相談も大歓迎ですので、お気軽にお問い合わせください。

 

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