1. クラウドDBサービス選択のいま 〜Oracle Databaseの“強さ”に加わる、新たな選択肢
こんにちは。NRIで、Oracle Cloud Infrastructure(以下OCI)サービスの機能調査や、OCIを活用したプロジェクトの支援を担当している山下です。
OCIといえば、Oracle Databaseの強力なサービス群が魅力の一つです。BaseDB(Oracle Base Database Service)、ExaDB(Oracle Exadata Database Service)、Autonomous Databaseなど、安定性・性能・利便性の三拍子が揃ったOracle Databaseサービスは、現在でも金融や基幹系などミッション・クリティカルな領域で高く支持されています。
一方で近年は、「低価格(コスト)重視」「OSS志向」「多様なDBエンジン利用の柔軟性」といったクラウドならではの流れもあり、MySQLやPostgreSQLを含む他のリレーショナルデータベース管理システム(以下「RDBMS」)も選択肢に加えたいというニーズが高まっています。
実はOCIでもマネージドMySQL(HeatWave)とマネージドPostgreSQL(OCI Database with PostgreSQL)という、OSS系RDBMSのフルマネージドサービスが公式に用意されているのをご存知でしょうか。本記事では、現場視点で見た両サービスの特徴やおすすめポイント、現状の進化について詳しく紹介します。
2. サービス概要と特徴早わかり 〜MySQL HeatWave/OCI Database with PostgreSQL
2-1. MySQL HeatWave
もともと「MySQL Database Service」として2020年4月に登場し、いまでは「HeatWave」という名前でサービス全体を指します。ベースとなるMySQL Enterprise Editionの強さに加え、OLAP用途の高速カラム分析を可能にするHeatWaveエンジンや、Lakehouse対応、Always Free枠など、クラウド時代に最適化された進化を遂げています。
商用ライセンスが前提だった高機能が、クラウド上でより安価に提供されるようになり、自動運用・セキュリティ・高可用性など、エンタープライズ向けの要件も十分に網羅されています。
主な特徴として以下のようなものがあげられます。
- HeatWave分析エンジン搭載:MySQL操作はそのままに、超高速な分析機能も両立
- エンタープライズ機能の標準装備:冗長化、暗号化、監査などセキュリティ対策が強力
- スケール性と自動化:OCPU・ストレージを自在に拡張、バックアップ・パッチが自動
- 運用管理性の高さ:DB管理サービスとの連携、リソース監視メトリクスが豊富
2-2. OCI Database with PostgreSQL
2023年11月リリースと、MySQL HeatWaveと比較するとやや後発ながら、いち早くデータベース最適化ストレージ(Database Optimized Storage)をバックエンド構成に採用。高IOPSを実現しつつ、3つのFDへの自動レプリケーションにより耐障害性も抜群です。商用DBからのコスト最適化や、幅広いOSSアプリケーション基盤にも最適です。
- 拡張性の高いストレージ層(高性能/大容量/複数パフォーマンス層選択可)
- 本家コミュニティ版に近い互換性と堅実な進化
- 柔軟なスケールアップ/ダウン、主要PostgreSQL拡張(PostGIS/pglogical/pgAudit等)が近年着実に追加
- リージョン間バックアップ等、将来的な災害対策/広域冗長化にも追随中
ただし、災害対策機能や拡張機能の充足度に関しては、Oracle Database、MySQLのサービスと比較するとまだ発展途上であり、今後のアップデートが期待されます。
2-3. サービス比較まとめ <2025年6月時点>
それぞれのサービスの特徴を纏めます。
項目 |
MySQL HeatWave |
OCI Database with PostgreSQL |
コスト |
BaseDBと比べて安価 |
BaseDBと比べて安価 |
運用 |
◎(バックアップ、メトリック、ログに加え、DB管理サービスとの連携もあり) |
○(バックアップ、メトリック、ログなど一通り実装) |
性能/拡張 |
柔軟+分析/OLAPも強み |
柔軟、高性能ストレージ |
バージョン |
最新追随(9.x, 8.4...) |
メジャーバージョン順調対応(14, 15) |
可用性 |
高可用構成により99.99%を実現 |
マルチノード構成により99.99%を実現 |
DR |
〇(レプリケーション機能、リージョン間バックアップ) |
△(リージョン間バックアップのみ) |
プラグイン |
豊富なサポート |
一部未対応あるが拡充進行 |
3. NRI 現場での導入動向・課題
NRIでは、2020年度に提供を開始したマネージドMySQLサービスに加え、2023年度に提供を開発したマネージドPostgreSQLサービスの利用も拡大しています。MySQLとPostgreSQLの選択は、アプリケーションの特性や開発体制などを総合的に考慮して行われています。
これらのマネージドDBサービスは以下のような面から、「小~中規模のシステム」、「基盤エンジニアの十分な体制確保が難しいプロジェクト」において採用される傾向にあります。
- コスト効率…Oracle Databaseと比べてOCI利用料が安価である
- 設計、構築の容易性…OSレイヤの設計が不要で、DBレイヤのパラメータもシェイプに合わせて設定されるため、既存のDB on IaaSでの構築に必要だった工数を大幅に削減できる
- 柔軟な運用…運用自動化と容易な拡張性で日々のメンテナンスや維持管理も楽
とはいえ、定期的なバージョンアップが必須となる点、プラグインや拡張のサポート未対応、DR(災害対策)機能のギャップ、ログ収集や監視方式の違いなど、オンプレミス時代と比べてネガティブに捉えられかねないギャップがあります。マネージドDBに合わせた設計の必要性を認識し、機能・非機能に対する要求を満たすマネージドならではの設計や実装が必要になります。
各システムにおいて、技術/サービスの制約を受けてオンプレミス時代と比べてシンプルな運用としているシステムが多いと感じる一方で、それでも本番運用上問題となっていないようです。クラウド流の割り切った設計によって過剰な作り込みをせずとも、うまくマネージドDBの適用ができているように感じます。
【ギャップ一覧 ~DB on IaaSとマネージドDBの比較表~】
ギャップ項目 |
DB on IaaS(自分でVM構築・運用) |
マネージドDB(クラウドサービス) |
バージョンアップ/パッチ運用 |
必要なタイミングで、計画を立てて都度実施。 |
OCI主導で、定期的・自動的に発生。業務影響最小化プロセスが必要。 |
技術/サービスの自由度 |
OSログインOK。カスタム監視、ログ収集、詳細なレプリケーション等が自由に作り込める |
OSログイン不可。標準機能のみ。メトリクス監視、クラウド型レプリケーションでの実装が基本。 |
拡張への対応 |
サードパーティツールの組み込みが自在 |
サポートされた機能のみ利用。新拡張はOCIのリリース待ち |
障害/復旧 |
障害時の対応手順・シナリオを自力で準備・実施 |
主要トラブルは自動修復やサポート依存、運用設計がシンプルに |
4. OCIでDBを“選ぶ”時代の到来
これまで“Oracle Database一択”だったOCIも、今やMySQL HeatWaveやPostgreSQLといったOSS系RDBMSのマネージドサービスを揃え、「目的やシステム要件から最適なDBを選択できる」クラウドへと大きく進化しました。
特にMySQL HeatWaveは圧倒的なスピードで最新技術や運用自動化を取り込み、クラウドネイティブ時代における新たな基準となりつつあります。そしてPostgreSQLも、OSSの柔軟性と着実な進化で企業の多様なニーズに応えています。
これからは “どのDBを選ぶか” が、システムの成否を左右する時代です。
コスト、可用性、運用負担、将来性――あらゆる観点から最適なDBサービスを選択することで、システム運用の価値を最大化できます。OCIなら、その選択肢が大きく広がっています。
5. ちなみに―ここ1-2年のアップデート状況と感じること
両サービスともにサービスイン後、目覚ましいアップデートが続いていますが、特にMySQL HeatWaveの進化ペースには目を見張るものがあります。たとえば、この1~2年だけでも以下のようなアップデートがあります。
- 高頻度な新バージョンサポート
- 例:MySQL 9.3.1サポート(2025/5)、MySQL 8.4対応やバージョンアップ
- クロスリージョン自動バックアップ、バックアップリストア進捗監視、証明書持込、Always Free対応、ECPUシェイプ、動的構成変更、セキュリティ強化(HeatWave: REST、自動ストレージ拡張、高可用性スイッチオーバー強化 他多数)
- 運用管理機能の強化(Database ManagementでのHeatWaveクラスタ監視など)
この頻度は、Oracle自身が本家として自社資産MySQLにかける開発パワー・スピード感がそのまま反映されており、機能追加や運用性改善を常に“今”利用できる安心感につながっています。
一方、OCI Database with PostgreSQLも2023年のサービスイン後、定期的にリリースが行われ、
- メジャーバージョン対応(PostgreSQL 15~)、
- 主要拡張機能の追加(pglogical/pg_cron/pgAudit/PostGIS/uuid-ossp等)、
- 垂直スケーリングやバックアップリージョン間コピー、パフォーマンス層追加
など順調に進化中です。
現状、HeatWaveと比較すると緩やかなペースと感じる部分もありますが、他クラウドにPostgreSQLベースのDBサービスが多数利用されていることを考えると、今後も間違いなく主力のDBサービスとなっていくことが予見されます。サポートバージョンや拡張機能の拡大、災害対策機能など今後の進化に大きく期待しています。
おわりに
本記事では、OCIにおけるマネージドMySQL(HeatWave)とマネージドPostgreSQL(OCI Database with PostgreSQL)の特徴や進化、現場で利用する上でのポイントをご紹介しました。これからのデータベース選択やシステム設計の参考になれば幸いです。ご不明点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にNRIまでお問い合わせください。
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