お客様のDXの推進やクラウド活用をサポートする
NRIグループのプロフェッショナルによるブログ記事を掲載

NRIの先進テクノロジーに関する取り組み ~デジタル空間におけるセレンディピティを考慮した推薦AIの調査~

IT基盤技術戦略室

小売・製造、金融・公共をはじめ、幅広い業界において「先進技術を活用してビジネスモデルを変革(DX)し、お客さまへ価値提供していきたい」というテクノロジー活用への期待が高まっています。一方その期待に反して、技術変化のスピードが速く、技術キャッチアップやその活用が難しいといった悩みもお聞きします。

そのような声にお応えするため、株式会社野村総合研究所(NRI)では「潜在的な顧客ニーズ発の技術調査」「技術動向を見据えた先進技術の早期評価「獲得した技術の事業適用」に継続的に取り組んでいます。このような活動を通して、NRIは専門知識を用いて企業様のビジネスとテクノロジーの架け橋となり、DX実現まで伴走します。

このブログでは、NRIで推進している先進的な技術獲得の取り組みについて、ご紹介していきます。今回は、「デジタル空間におけるセレンディピティを考慮した推薦AIの調査」に関する調査研究の成果をピックアップしました。

 

デジタル空間におけるセレンディピティを考慮したレコメンドAIの調査

ECサイトやニュースサイト、SNSなど多くのシステムでは、ユーザの好みに合わせた「おすすめ」の情報が表示されます。購買履歴や閲覧履歴より、ユーザの趣味趣向に基づきおすすめ(レコメンド)されるため、ユーザの「いつもの」を探す手間の軽減、利便性向上につながっています。その一方で、過度にパーソナライズされたレコメンドは、新規性や多様性に乏しく、飽きやすく長続きしない原因の一端ともなっています。
自身の関心に限定された情報しか接しない状況は、フィルターバブル(集団的極性化)やエコーチェンバー(反響環境)を加速させるものとして社会的にも危惧されています。

上記課題へのアプローチの一つとして、デジタルな「セレンディピティ(偶然の出会い)体験」を生み出すレコメンド手法があります。本領域に関する研究は、2000年代よりその課題意識や評価指標等を中心に始まり、多様性・意外性等を含んだおすすめの情報を提示する手法として注目されています。

今回、NRIでは、セレンディピティを考慮したレコメンド手法の調査を実施しました。その活動の一部をご紹介します。

まず、セレンディピティを実現するアプローチを整理すると、「ルールベースでのアプローチ」と「AIベースでのアプローチ」の2つに分類されます。「ルールベースでのアプローチ」では、ビジネス的な観点でルールを作成し、レコメンドする方法です。ルール設計によっては効果や性能にバラツキが生じる特徴があります。
一方「AIベースでのアプローチ」は、強化学習ベースのレコメンドエンジンを用いてセレンディピティを実現する方法です。「ルールベースでのアプローチ」と比較し、より複雑な条件下での活用が期待されています。

セレンディピティに関する評価方法自体も様々存在しています。論文や文献の調査より、「多様性」、「意外性」、「新規性」に関する評価指標が多く使われていることが分かりました。「多様性」とは、内容が似ていないアイテムがレコメンドされているかを示す指標です。1回のレコメンドに含まれるアイテムのジャンルがそれぞれ異なるほど大きい値をとります。「意外性」とは、ユーザが過去にレコメンドされた、もしくは消費したジャンルと比較して、今レコメンドされたジャンルがどのくらい新しいかを表す指標です。過去のジャンルと今レコメンドされたジャンルの類似度が異なるほど大きい値をとります。「新規性」とは、レコメンドされたアイテムがどれほど消費されていないかを表す指標です。レコメンドされたアイテムを消費したユーザが少ないほど大きい値をとります。

 

 

次に実際に、映画レビューに関するオープンデータ(GroupLens Research社提供の「MovieLens」データ)を使用して、セレンディピティを考慮したレコメンドエンジンの構築を行いました。Lui et al. (2019.10)が提案したレコメンドエンジンをベースに、独自にセレンディピティ指標を報酬に加えたカスタムエンジンを実装、「MovieLens」データに含まれる任意の3ユーザをピックアップしセレンディピティ観点での改善傾向を確認しました。確認軸は、①「適合率(レコメンドした映画を実際に視聴した率)」、②「適合率」と「多様性」、③「適合率」と「意外性」、④「適合率」と「新規性」をそれぞれ報酬として設定、セレンディピティを向上させられるかを比較しました。具体的には、「多様性」の確認として①と②の比較、「意外性」の確認として①と③の比較、「新規性」の確認として①と④の比較を実施しました。その結果、多様性・意外性・新規性を報酬に組み込むことで、それぞれ適合率の向上が確認できました。本結果より、レコメンド手法の報酬に、「多様性」、「意外性」、「新規性」を組み込むことで、ユーザの興味関心の幅が広がり、新たな選択肢・可能性がうまれていくことが考えられます。

セレンディピティを考慮したレコメンド手法は、映画レビューなどのエンターテイメントコンテンツだけでなく、商品やサービス、人事・HR、金融業など幅広い分野での活用が期待されます。今後も、領域に応じたエンジンや評価軸の検討・評価を引き続き進めていく予定です。

NRIでは、企業のDX戦略の実現をサポートするため、各技術領域について、調査、検証・評価を実施しています。今回は、本取り組みの一部である、セレンディピティを考慮したレコメンド手法の調査・検証について、その一部をご紹介しました。今後も、NRIでは、この分野での最新の動向をキャッチアップ、調査・検証を通じて、安全・安心で、より柔軟なシステムの実現に取り組んでまいります。

[関連キーワード] #セレンディピティ #レコメンド手法 

 

※ 記事に記載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標又は登録商標です。